公教育を問う:見直される道徳
「親力」 低下 …… 幼稚園に専門教諭


 挨拶ができない、箸を正し持てない、授業や食事中に立ち歩く、ヒヨコやウサギなど小動物の抱き方が分からず “わしづかみ” にする、機嫌が悪いとすぐ友達にあたる ……。 幼稚園や保育園の先生から、こんな子供たちの気がかりな様子を聞くことが多い。
 子供だけではない。
 東京都内の幼稚園の保育参観。 母親らは雑談をやめない。 ガムをかんだり、帽子を脱がない親もいる。
 「お母さん、もう授業が始まっていますよ」。 保護者にもこまめに注意しなければならない。
 池に物を投げる幼児を叱れず、 「注意してくれませんか」 と懇願する母親もいる。
 「自身が悪者になっても厳しく言っておかないと」。 最近の幼稚園の様子を話す教員はうんざり顔だ。
 就学前の家庭でのしつけは小学校生活にも影響する。 小学1年の教室が荒れる 「小1プロブレム」 の背景には、日常のきまりを守れず、集団生活に慣れない子供たちが多くなっていることが指摘されている。
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 「親力」 の低下傾向と反比例するかのように、規範意識や公共心をはぐくむ道徳教育への保護者の期待は高まっている。 東京都豊島区では新年度の4月から、区立幼稚園に道徳の教諭が登場する。
 幼児教育の重点として道徳教育充実を据え、専門非常勤教員を区立幼稚園3園に1人ずつ配置。 挨拶や言葉遣いをはじめ、生命尊重の精神や規範意識を身に付けさせるねらいだ。 専門教員を中心に1年かけて道徳性育成カリキュラムを作成。 次年度以降は、区内の公立保育園や私立幼稚園にも普及させる。
 区立池袋幼稚園の桜井早苗園長( 56 )は 「専門教員にはお年寄りや小学生との交流や勉強会なども担ってほしい」 と話す。
 区教委が平成18年7月、小中学生の保護者を対象に学校が取り組むべき重点課題をアンケートしたところ、道徳充実を求める声は約3割で、提示した13項目のうち2~3番目に多かった。
 区教委では 「逆説的だが、子供が成長すれば親が変わる契機にもなる。 子供の道徳性を高めることで、親の啓発にもつながるのではないか」 ( 教育指導課 )と相乗効果も期待している。
 東京都品川区の区立二葉幼稚園では数年前から、園長の発案で、年に数回開かれる保護者会にグループ学習を導入。 朝食をきちんと食べる習慣づけなどさまざまなテーマを提示し、家庭での生活を議論している。
 すると若い母親は、 「わが家では食事の際に 『いただきます』 『ごちそうさま』 の挨拶を言わせていなかった」 なざと、しつけ不足に気づき始めるという。
 同園の大沢洋美教諭( 42 )は 「幼稚園の仕事の半分は家庭の支援。 保護者同士のコミュニケーションが不足しており、井戸端会議のおぜん立ても必要だ」 と打ち明ける。
 千葉県柏市の私立くるみ幼稚園では、送り迎えの際の声かけや面読会で、保護者との接触機会を増やすようにしているという。 溜川良次理事長( 55 )は 「親の心がけ次第で子供が改善される例は多いが、生き方や価値観は真正面から言いづらく、教師は親とどう接すべきか悩んでいる。 幼稚園はプロの集団なので遠慮なく相談してほしいのだが ……」 と考えあぐねる。
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 朝ごはんをきちんと食べる食生活改善や早寝・早起きの推進など 「朝ごはん条例」 の制定で知られる青森県鶴田町では、小学5、6年生の希望者を対象にした5泊6日の合宿を始めてから4年が経過した。
 学校に通いながら、公民館で朝夕飯を自炊。 午後10時に就寝、午前5時45分には起床して、規則正しい生活習慣を身に付けさせる試みだ。
 担当者によると、児童らは合宿終了後、翌日の洋服を枕元に置いてから床に就いたり、家事の手伝いに積極的になるなどの効果が表れているという。
 「親学会」 会長の福田一郎・東京女子大名誉教授( 遺伝学 )は 「子供は10歳ごろまでに人間性や感受性の源となるエモーション( 情動、情緒 )を培い、自己を確立する」 と指摘。 「子は親の鏡であり、親は最初の教師だ。 家庭教育が今ほど問われている時代はない」 と警鐘を鳴らしている。
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 いじめ問題や少年非行の低年齢化の中、道徳教育の充実は、公教育再生のカギでもある。 だが学習指導要領改定の度に指導充実が謳われながら実効があがっていない。