( 2018.08.03 )

  



 近年、会社内には 「自分のやりたいこと」 だけを主張する “モンスター部下” が急増中だ。彼らの登場によって、職場崩壊へのカウントダウンが始まっているというが、この問題の背景には、政府が推進する 「キャリア教育」 の弊害があるようだ。

 プライドばかりが高い部下を量産するキャリア教育

 プライドばかりが高い若手が増えています自分のやりたいことは曖昧なまま、親の望む有名企業への就職を志し、プライドばかり高い …… そんな若手に手を焼く企業が増えています。

 「最近の若者は仕事に対して 『やる意味』 を求めます。 OJT( 業務を通して行う職業教育 )で仕事を教えても、意味が理解できなかったり、 『やりたいこと』 ではなかった時には、仕事を放棄することもあります」

 こう語るのは都内の人材紹介会社に勤務する男性だが、これはまさに今の時代を象徴する話といえるだろう。

 新卒として企業に入社しても、希望の部署に入れなければ退社をちらつかせ、コピー取りや掃除など雑務は 「やりたいこと」 ではないと文句を言う。 さらに、本人にとっての 「やりたくないこと」 が続くことで、精神的に病んでしまう若者までいる。

 新社会人が最初の研修で学ぶであろう、 「Will-Can-Mustの3つの輪」。 これは、 「仕事とはやるべきこと、やりたいこと、できることが重なり合うところで遂行するもの」 とする考え方だが、今の若者は “やりたいこと” だけに前のめりになっているのだ。

 もちろん、そんな若者を 「甘い」 と切り捨てることは簡単だが、対応を誤れば職場崩壊の危機に発展しかねない。 企業側とすれば、少しでもいい人材を採りたいと採用に時間や労力をかけており、新入社員も、苦労して就職活動を乗り切ったはず。 その結末がこれでは、お互いにあまりにも不幸だ。


 親の仕事すら大して知らない小中学生が増殖中

 こうした若者が増えている原因の1つは、政府が押し進める、学校現場でのキャリア教育にある。

 文部科学省によれば、キャリア教育とは 「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度」 を身につけるために、 「普通教育・専門教育を問わず様々な教育活動( 職業教育を含む )の中で実施される」 教育のこと。 端的にいえば、学生1人1人に合わせて “仕事観” を育てる教育だ。

 では、実際の教育現場では何が行われているのか。 小学校では、子どもに仕事のことを教える際、昔ながらの職場体験やごっこ遊び、社会人の話を聞くといったことが行われる。 中学校においても、小学校とそう多くは変わらないが、自己分析といったことをやり始め、将来について少しだけ考える時間を設けている。

 「生徒に仕事観を育ませようとしても、今の子どもたちは親の仕事すら大して把握しておらず、仕事というものを体験活動でしか知らないため、将来のことなんて考えられる状況ではありません。 進路指導としては、何も考えなくていい “進学” を生徒に勧めるのが大半かと思います」 ( 都立中学校勤務の教師 )

 高校に上がると、段々と 「やりたいこと探し」 を強いるようになるが、具体的な職業教育となると心許ない。 就職先の相談や、面接での立ち居振る舞いを指導するといったあたりが一般的なところだろう。

 ようやくキャリア教育が本格化するのは大学に進んでからだ。 大学は今や就職支援機関と化し、企業の求める人物像を養成しようと踏ん張っている。


 自分のやりたいことではなく親の期待にばかり目が向く大学生

 大学で行われるのは、エントリーシートの書き方とインターンシップの推進だ。 ぼんやりとした将来像でもあればいいが、全く自分の未来を想像できていないようでは、就職活動には参加できない。 自己分析という名のもとに、 「やりたいこと探し」 を求められるのが今の大学生である。

 「やりたいことを細かく言葉にしなければ、エントリーシートは書けません。 でも、親からは公務員か、CMに出ているような大手企業への就職を求められている。 自分というよりは、親の 『やってほしいこと』 を探すのが就職活動の第一歩なんですよね …」 ( 私立大学就職支援課勤務 )

 キャリア教育の難しさは、現代における子どもの家庭環境を抜きには考えられないのだ。 今の家庭は、兄弟が少なく核家族であり、共働き世帯が多く存在する。 極端な話、多くの子どもたちは塾と学校を往復し、暇さえあればゲームに興じる生活である。

 そんな生活スタイルとなれば、子どもは自分の未来を感じさせてくれるような第三者の大人と出会う機会も当然少なくなる。 また、昔と比べて現在のビジネスの仕組みや雇用形態が複雑化したこともあり、子どもは親がしている仕事の内容についてよく理解できず、仕事観や将来を考える機会も減ったといえる。

 さらに今の子ども世代は、コミュニケーションツールとしてLINEなどを使用し、 「了解」 については 「り」 といった一文字で表す略言葉や、スタンプを多用している。 このことからも、言葉を発する機会自体が少なくなったのは明らかだ。


 放任の言い訳に使われる 「個性尊重」 教育

 この時点で、すでに将来への不安を内包している。 というのも、企業が求める人材像として、コミュニケーション能力の高さがトップにくることは多いが、言葉を発する機会が少ない世代は、そのスキルを習得すべくもないからだ。

 また、共働き世帯の親は、普段子どもと一緒にいる時間が少ないためか、どうしても甘やかしてしまう傾向にあるという。

 「子どもには嫌われたくないので、強く言えずにいるのが実際のところです。 何かあればお金で解決してしまうことも …」 ( 建築関係に勤務する男性 )

 そんな親から体のいい言い訳としてよく使われる言葉が、キャリア教育が掲げる 「個性尊重」 である。 「個性を尊重し、自発性に任せている」 という理屈のもとで、放任を正当化するのだ。

 このような家庭環境を背景とした個性尊重の旗印のもと、小学校ではあだ名を禁止したり、教師が生徒を 「さん」 づけで呼ぶケースも増えてきている。 そして、子どもを競争から遠ざけ、運動会の徒競走では横並びにゴールするといった教育が施されるようになったのだ。

 こうして、子どもたちは準備もないまま、自立を強いられることになる。

 かつてのトップダウン教育への反省から、学校教育の場で一貫して美徳とされている 「個性尊重」 と 「やりたいこと探し」 が中心となったキャリア教育が、モンスター部下を生み出す土壌となっているのだ。

 体罰や価値観の押し付けに問題があるのはもちろんだが、放任一辺倒でも子どもは育たない。 学校教育の現場や親たちは、このことを改めて考える時期が来ているのではないだろうか。





( 2018.08.09 )

  -


 キャリアの “下積み” を嫌い、いち早く管理職を目指す若手社員が増えている。 一方で、彼らをマネジメントする上司には戸惑いも …。
 「石の上にも3年」 という発想は、今の若手社員にとって、過去のものになりつつあるのかもしれない。


 若手が下積みを嫌う “下積みレス社会” と、上司世代はどう向き合えばいいのか。
 直近の有効求人倍率が44年ぶりの高水準を記録するなど、高度成長期以来ともいえる売り手市場だ。 「成長できない」 「同じ仕事の繰り返し」 と感じた若手は、躊躇なく退社という道を選び、転職市場へ飛び出す。 だが、その理由は実は切実だ。

 役員になってから子どもを産みたい

   「早くマネージャーになりたいと考え、売り上げへの貢献度を数字で示して、自分で会社に交渉しました」

 都内の新進気鋭のベンチャー企業で働く松本美波さん( 仮名 )は、入社1年未満の24歳にしてすでにマネージャー職に昇格。 自分より年上の部下が複数いる。

 美波さんの目標は 「最年少役員になること」。 その理由は明白だ。

 「役員になってから、子どもを産みたいと考えています。 その方が働き方の融通も効くし、短時間労働でも給与は下がりません」

 平社員のまま出産し育休をとって時短勤務で復職すれば、手取りの給与は産前の半分程度という例も珍しくない。 時短勤務が続けば、昇進もままならない。 それは 「かえって不自由」 と感じる。

 女性が出産や育児をしながら働き続けることは、ハードルが高い。 だからこそ 「険しい道を突破したい。 この先、いつ辞めたくなるかわからないので、市場価値を高めておきたいのです」

 仕事は好きだ。 フラットで完全に実力主義の、ベンチャーの社風が水に合う。

 「言われてやる仕事はゼロ。 ずっとすごく面白い。 寝る間も惜しんで働いてしまいます」

 そんな美波さんは、新卒で入社した前職の小売業を9カ月で辞めている。

 扱う商品が好きで、望んで入った業界。 店舗での接客業も得意だった。 仕事ぶりが評価され、昇進の打診も受けていたが、未練はなかった。

 というのも、上司のプレッシャーや権限が強く、常にパワハラ気味。 部下はとにかく従わざるを得ない。

 子どもを育てながら柔軟に働くことを考えると、そうした日々を耐えて 「下積み時代」 を過ごす気にはなれなかった。

 ゲーム系のIT系のベンチャー企業で働く石橋レナさん( 仮名、23 )は、大学は文系学部出身で、ITには特段興味があったわけではない。 それでも今の会社を選んだ理由は 「IT企業ならば成長が早い」 と考えたからだ。

 「仕事だけじゃなく、結婚も出産もしたい。 それを考えると、30歳くらいまでには、ある程度の地位や実績を残してキャリアの地盤作りをしておきたい。 そうすれば、育児を経ても復帰できると思います」

 内定後の2017年夏から内定者アルバイトを始めた。 2018年4月の入社からまだ半年たっていないが、すでに1人でプロダクトを担当している。

 仮に日系の大手企業に入れば、地方への配属もあり得る。 そうなると 「本社に上がるまでに時間もかかるし昇進も順番待ちになる」 ( レナさん )。 就活段階から、日系の大手企業への就職は選択肢になかった。


 適材適所の人事で離職率10%以下に

 少子高齢社会による構造的な人手不足と好景気で、現在は新卒も第二新卒( 大学卒業後数年内の求職者 )も引く手あまただ。

 こうした 「下積みレス」 思考の若い社員を何とかつなぎ止めようと、企業サイドも動き出している。 入社後早い時期から大きな裁量権を持たせたり、一律の給与体系を見直す会社も出てきた。

 みずほフィナンシャルグループ : 2019年4月入社から新卒採用人数を約半減させ、従来の銀行員とは違うタイプの人材を探す。 これまで新人育成として5~10年かけて支店を2~3カ所経験させてきたが、今後は優秀な人材は早い時期から専門的な業務を任せる方針に。

サイバーエージェント : 入社7年目の29歳の社員を執行役員に抜擢したり、 「AbemaTV」 でヒットを飛ばしている将棋・アニメチャンネルや恋愛リアリティショーのプロデューサーにも20~30代前半の社員を据える。 現在の離職率は10%以下に。
LINE : 子会社であるLINEモバイル社長に入社1年の31歳の社員を起用。 2019年度新卒採用ではエンジニアの一律年俸を廃止し、技術テストや面接の評価によって金額を決定。 固定年俸も他部署より約100万円高い。

ソフトバンク : 子会社のソフトバンク・テクノロジーでは、新卒社員でも実績があれば管理職層のひとつ手前のグレードに配置するなど “飛び級” ができる 「グレードスキップ」 制度を設けている。

メルカリ : 新卒のエンジニア・プロデューサー・デザイナー職に対し、一律の初任給を廃止して個人のスキルに応じた年収を提示。 内定期間中でもスキルを身につければ、提示された報酬が上がる可能性も。


 “下積み” は学生時代に済ませている?

 今、社会に広がる 「下積みレス」 願望を強く実感している人は少なくない。

 新卒で大手電機メーカー・パナソニックに入社後、これまでにハードウェアなどのスタートアップ2社を立ち上げた、Shiftall社長の岩佐琢磨さん( 39 )もその1人だ。 大企業を経て起業すると共に、35歳以下の若者たちを支援するアクセラレーションプログラムのメンターを務めるなど、多くの若者たちに接してきた。

 その中で 「価値観が多様化し、アグレッシブに働きたいか、そうでないかを人生の早い段階から決断する人が増えた」 と感じている。 そしてその背景としては 「今の30代後半以上の管理職世代に比べ、彼らの方がはるかに 『早熟』 であることが多いから」 と、見ている。

 「大学生までインターネットに触れたこともなかった私たちに比べて、今の学生は情報を得たりビジネスに関わるチャンスが桁違いに増えています。 『友人と一緒に会社を立ち上げてこういうプロジェクトをやっていました』 というような、新卒なのに中途採用くらいの経験を積んでいる “ビジネスマッチョ” な学生も少なくない」 ( 岩佐さん )

 そうした時代環境の変化を無視して、 「そんな人に何の経験もない他の新卒と同じことをやらせたら、それは辞めちゃいますよね」。 むしろ、これまでの人事制度の限界を指摘する。

 「これまで企業には “中肉中背” の人を想定した人事制度しかなかった。 管理職が社歴では測れない彼らの “入社前下積み” をどう評価し、それに合わせた働き方をどう提示していくかが、今後の課題だと思います」


 年功序列の崩壊でやるべきこと

 とはいえ、下積みレス志向への組織や社会のシフトは、年功序列型が定着している日本では一筋縄とは行かなさそうだ。

 まず、若手が早い成長を追い求めると言っても、その方向性も一つではない。 管理職を望む人もいれば、 「一生コードを書いていたい」 というエンジニアのような専門性を追求する人も。

 さらに早い成長を追い求める若手管理職も、これから増えるだろう。 自分より年下の社員にマネジメントされることになった人の中には、抵抗を感じる人も少なくないだろう。

 「年功序列が崩れていく下積みレス社会では、社員をうまくマッチングさせてあげることが非常に重要です。 仕事には意欲的だけどまだコミュニケーション能力には不安がある若手マネージャーには、エンジニアリング能力はそこまで高くないけどコミュニケーションは100点という人をペアにしてあげたり」 ( 岩佐さん )