登校拒否をしたいから親を説得してよ
~塾にみる親と子の風景~




学校ってどういうところなの?

「先生。 あのさあ ……」
たしか数年前の6月中旬だった。 いつも元気なコージ君が、塾へ静かに入ってきて話かけてきた。
「先生、僕はどうしてもわからないから聞きたいんだけど・・・」
「何を聞きたいの」 という私の問いに、しばらく間があって、
「先生、学校ってどういうところなの?」 と、聞いてきたのである。
「コージ君、どうしたの、何があったの?」

思わず問い返した。 これが小学校二年生の質問とは、どうしても信じられなかったからだ。
「先生、僕たちは学校へ勉強をしに行ってんだよね」
「そうだよ、学校はみんなで勉強をする所だよ」
「それがさ、学校はうるさくて勉強なんかできないんだよ。 バカなのがいてさ、授業中に教室を走り回ったりして騒いでいるんだ」
「子供だから、一人か二人は騒ぐ時もあるんじゃないの」
「そんなんじゃないよ。 毎日7,8人が走り回ってうるさいんだよ」
彼のクラスは35人。 なのに、授業なんてものじゃないという。
「担任の先生はどうしているの。 騒いでいても注意しないの」
「いくら注意されたって、聞くようなやつらじゃないんだ。 それにね、そいつらの親はもっと始末が悪いって、担任は言ってたよ」
「‥‥‥‥‥」

彼の憎悪のこもった言葉に、私は何も言えなかった。
「先生、僕はね、勉強しないのは学校に来なくていいと思うんだ」
「ああ先生もそう思うよ。 そいつらは何のために来ているのかね」
「勉強は大嫌いだっていうから、絶対に勉強するためではないよ」
その後、他の塾生たちに学校の状況を聞いてみると、彼等のクラスもコージ君のクラスと大同小異であるのを知った。 まるで無法地帯の中での生活を、真面目な子供たちは余儀なくされているのだ。
この学級崩壊の悲惨な現実に、私は暗澹たる思いになった。


登校拒否をしたい

コージ君にもどろう。 あれから数日後、彼から相談を受けた。
「先生、僕ね。 あんな学校へ行ってもなんにもならないと思うんだ」
「うーん、気持ちはわかるけど、どうしてそう思うの」
「だってさ、勉強もできない所へ行ったって仕方ないじゃん」
「それもそうだけど、学校へ行かないわけにはいかないよ」
「お母さんもそう言うんだ。 だから、僕は学校になんか行きたくないのに、どうして行かなきゃいけないのって聞いてみたんだ」
「そうしたらお母さんは何と言ったの」
「色々と言ってたけど、お母さんにもよくわからないみたいなんだ」
「もし学校へ行かないとしたら、勉強はどうするの」
「この塾でやってる勉強で十分なんだよ。 学校よりも進んでるし」

生き生きとした表情で言うコージ君を私は見つめ直した。
「だからさ、先生。 僕は毎日この塾できちんと勉強するからさ。 学校へ行かなくてもいいように、お母さんと話してくれないかな」
「なに? 登校拒否してもいいかと、お母さんに聞いてくれというの」
「そうその通り。 先生、よろしくお願いします」 と彼は言うのだ。
私は何と答えたらいいのか、その言葉が見つからなかった。
そんな時に数人の塾生が元気のいい挨拶と共に入ってきた。 そして彼等は、深刻な顔をしている私のそばに集まり、聞いてきた。
「二人で何を真剣に話していたの。 私たちにも聞かせてよ」
「コージ君、さっきの話をみんなにしてもいい」
「ああいいよ」
と言うので、これまでのいきさつを話した。 すると、
「それなら先生、私も登校拒否をしたいから頼みたいわ」
と、全員が真剣な面持ちで言い出したのである。

最近、「登校拒否をしたいから、親を説得してよ」 と真面目な子からよく言われる。 これは、私のまわりだけの現象なのだろうか。