( 2006年3月 )
 人生の出発点からハンディを背負い、夢や意欲を持つことができない子どもたちがいる。
 世代を越えて格差が拡大再生産される社会を、私たちは受け入れることができるのか。
 子どもの足元に広がる 「分裂」 を考える。

「あなたの将来の夢は何ですか?」
「コンビニのアルバイトです」

 女子中学生の答えに、東京都江戸川区職員の徳沢健さん( 36 )は絶句した。 生活保護家庭の進学を支援するボランティア教室で、高校入試の面接練習をした時のことだ。

 九九が完全ではないような中学生に勉強を教えている。 「本当は勉強した方がいいって、彼らも分かっている。 でも、今の子には未来が見えにくい」 と徳沢さんは言う。

 ゆとり教育に対する反動から、学力競争を当然視する風潮が強まっている。 だが現実には競争の舞台にも上がれず、将来に希望を持てない子どもたちがいる。

 都東部の中学校で今年度、3年を担任した男性教師( 53 )は、1学期初めに進路説明会を開いた時、出席した保護者が約1割だったのに驚いた。

 この学校がある区では、文房具代や給食費などの就学援助を受ける児童・生徒の率が、全国平均より突出して高い。 同校でも、約半数の家庭が受けている。

 クラスの多くの子が携帯電話やゲーム機は持っているが、家庭に本やパソコンや学習机がない。

 子どもの教育に関心を持てないぐらい、親の生活に余裕がなくなっている。 この教師は、そう感じている。


「つながりを」 成績いい子にメール殺到

 人生の最初の十数年。 スタートラインは、決して横並びではない。 環境が異なれば、友人関係も、見る夢も異なる。

 横浜市の主婦( 43 )は、私立中に合格した長男の携帯電話が何度も震えるのに気付いた。 こっそりのぞいたら、女子生徒からデートを誘うメールが大量に届いていた。

 長男は東京と神奈川の難関中4校に合格し、塾では 「四冠王」 と呼ばれていた。 「成績がいい男子とは、つないでおいた方がいいわよ」。 お母さんたちの間で話題になっていたのだという。

 「塾では成績でクラス分けをするため、同じ学力レベルでグループができ、中学以降もそれが続く」。 安田教育研究所の安田理代表は指摘する。

 主婦が、長男に将来の夢を聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

 「社長になりたい。 お金を稼ぎたい」

 非常階段から遊具を投げ落とす。 消火器をまき散らす。 都西部の住宅街にある公立小で、6年生のクラスが荒れた。

 中心にいたのは、塾で成績がトップクラスの受験組で、医師の子どももいた。 授業を崩壊させたあげく、本人たちは有名私立中に進学を決めた。

 受験ストレスを抱える児童たちが授業を混乱させ、塾に通わない児童に学習の空白期間ができる。 先月、三重県で行われた日本教職員組合の教育研究全国集会でも同様の事例が報告された。  


塾代月2万円 百円文具でひねり出す

 「今のクラスにいると頭が痛くなる。 中学受験してみたい」。 都内の主婦( 43 )に小6の長女が訴えたのは、昨年夏のことだった。 受験組が勝手に歩き回って授業にならないのだという。

 自営業の夫の手取りは月30万円ほどで、就学援助を受けている。 長女を頭に3人の子を抱える主婦は、今春開校の都立中高一貫校に望みをかけた。 私立並みに進学に力を入れ、学費は安い。

 文具は百円ショップでそろえ、何とか月2万円の塾代をひねり出した。

 だが、目指す学校の倍率は10倍近くにもなった。 合格者名簿に長女の受験番号はなかった。

 昨年暮れ、受験勉強の合間に、混雑する成田空港の様子を報じたニュースを見ながら、長女がそっとつぶやいたのを主婦は忘れられない。

 お金のことを気にしない生活をしてみたい







 東京都内のある公立中学校で休み時間、毎日のように保健室を訪れる2年生の女子生徒がいる。 年配の養護教諭ができるのは、ゆっくり話を聞いてあげることだけだ。

 塾の毎月のテストで、必ず1番を取らなければいけないんです、と女子生徒は切々と訴える。
 だって、特待生にならないと、塾代がただにならないのお金がかかるなら塾はだめって

 こんな生徒が保健室に駆け込むようになったのは、ここ数年のことだ。
 「打ち明けてくれる子はごく一部。 もっと多くの生徒が経済的な問題で追いつめられているはず」

 塾が、学力を決める。 お茶の水女子天文教育学部長の耳塚寛明教授は03年、東京近郊の都市で調査を行い、そう結論付けざるを得なかった。

 影響は、親の学歴や家庭での学習時間よりも大きかった。 100点満点のテストとすると、小学6年生では、進学塾に通っている子と、そうでない子で平均点が27点も違った。 全体の14%しかいない通塾者が、私立中学合格圏内の9割近くを占めていた。


貯蓄残高ゼロ 生命保険解約 車は手放す

 塾に行くか、否か。 公立か、私立か。 敦育における選択には、常にカネがつきまとう。

 3年間通った進学塾の費用が230万円、さらに模擬試験代、受験料や入学金……。 長男を私立中に入学させた横浜市の主婦( 44 )が中学受験のためにかかった費用を計算したところ、3年間で400万円を超えた。

 家庭の経済的理由で給食費や文房具代などを行政が支援する就学援助の平均は、小学生で年間7万円程度。 この家庭では同じ金額を1ヵ月の塾代で使ったことになる。

 単身赴任中の夫の年収は約1200万円だが、マンションのローンを抱え、貯蓄残高はゼロになった。 夫婦とも生命保険を解約し、駐車場代が借しくて車も手放した。 自らもパートに出て家計を支える。 見返りを求めるつもりはないが、「学費の分は勉強しなさい」 とつい、言ってしまう。

 神戸、京都、東京、名古屋‥‥。 名古屋市に住んでいた主婦( 39 )は昨年、長男のために1都1府4県にまたがって最難関私立中の受験スケジュールを組んだ。

 受験料、交通費、宿泊代だけで相当な出費になった。 「夫は普通の会社員。 財産になるものは教育しかないですから」

 結果は4勝2敗。 東京の私立中に進学を決め、父親を名古屋に残して、子どもたちと母親で東京へ転居した。

 大手進学塾の日能研の調べでは、今春、首都圏で過去最高の5万3千人が中学受験に挑んだ。 公立の中高一貫校5校に増えた東京では、受験率は前年より5ポイント伸びて28%に。 4人に1人が就学援助を受ける東京で4人に1人が中学を受験している。

 橘木俊詔京大教授が研究代表となって2005年に実施した富裕層調査では、年間納税額3千万円以上の高所得者の約7割が、低年齢から子どもを私立に進学させていた。 また4割が、子すべてにかかる学校の授業料として、合計で年間300万円以上を費やしていた。

 「いくら教育にカネをかけても相続税はかからない。 富裕層にとっては教育投資が、最も効果的で効率がいい子どもへの相続になる」。 調査を実施した森剛志甲南大専任講師はそう指摘する。


お金のある子 公立落ちても私立がある

 昨年末に公表された文部科学省の 「子どもの学習費調査」 によると、中学、高校6年間の教育費は、ともに公立の場合296万円だが、私立の場合は692万円。 約2.3倍の差がある。

 親の経済力を、子どもは選ぶことができない。 人生の岐路で、子どもたちは 「格差」 と出会う。

 今年の受験シーズン、東京都北西部の中学校に通う3年生の女子生徒は都立の受験校を決める日を前に、訴えた。

 お金のある家の子は落ちても私立に行けるから、危なくても希望の都立に挑戦できるでしょお金がないと行きたい高校も受けられないんだよ先生、これって差別だよね

 目に涙をためて話す生徒に、学年主任の教師( 47 )はかける言葉が見つからなかった。

 女子生徒は4月、希望していたのとは違う高校の門をくぐる。







 そう長男が希望するのを聞いて、三重県の女性教員( 46 )は戸惑った。

 私立なんて、まるで塾と同じじゃない ……。 だが、公立の方が絶対いい、と息子を説得するだけの材料がなかった。

 経済的理由で教育の機会が左右されるのはおかしいと思うが、公立は多様な子を受け入れるため、学力向上だけに力を注げないのが現実 と、この教員は本音を明かす。 息子に、変な 「勝ち組」 意識はつけたくないと思っているのだが。


学費年300万円国も後押し? エリート養成

 結局、受験先の一つに選んだのは、愛知県の海陽中等教育学校だった。 トヨタ自動車やJR東海など、中部財界の肝いりで今春開学する全寮制の 「日本版パブリックスクール」。 年間の学費は、約300万円とされる。

 この 「エリート養成校」 設立には、文部科学省の影が見え隠れする。

 開校をめぐっては、文科省職員がJR東海に約1年間派遣され、英国のエリート校視察などをしていた。 省として学校設立に便宜を図ったのでは、との疑惑が昨年、国会で取り上げられた。

 「海陽」 の例に限らない。 日本の国際競争力を強めるためにも、エリート教育を推進すべきだ、との声は、文教族議員に根強くある。

 文相経験者である与謝野金融相は17日、放送の収録で、「神様がつくってしまった才能の違いを全部まとめて平等に扱のは無理」 と語った。
 
 「飛び抜けて出来る人を社会全体で大切にした方が、我々平均的な人間は得するのではないか」

 エリート教育を肯定する動きの一方で、教育の 「機会均等」 を崩しかねない制度改革が今、進んでいる。


「就学援助」 ニーズの一方縮小の動き

 国と地方の税財政を見直す 「三位一体改革」 で、義務教育費の一般財源化か進んだ。 16日に衆院を通過した公立小中学校の教職員給与の国庫負担を引き下げる法改正の審議。 小坂文科相は 「教育条件の悪化となるような格差を生み出すものではない」 と答弁したが、与党議員までがやじをとばした。
 所得の低い家庭に給食費や教材費などを支給する就学援助。 全国的に援助率が高まるなか、法改正により、2005年度から、自治体が独自に資格要件を定める 「準要保護」 向け援助に対する国庫補助がなくなった。

 名古屋市や新潟市では、06年度から就学援助の縮小を決めた。 名古屋市では今まで4人家族で一年収357万円以下なら援助を受けられたが、297万円まで基準を引き下げた。 財政難を背景に、他の自治体でも追随する動きがある。

 地域の財政力格差や、家庭の経済力格差が、そのまま子どもの学力差につながりかねない社会へ、地ならしが進む。

 小坂文科相は先月19日のNHK番組で、家庭の経済力による子どもの学力格差について 「独自の調査ではそんなに明確に収入による格差は出ていない」 と否定した。

 だが、現実は‥‥。
 東京都東部のある区で、学校関係者が、各校の就学援助率と学カテストの平均点との関係を調べた。 小中学校ともに、就学援助率が高い学校ほど、平均点が低い傾向がみられた。

 東京23区で、各区ごとの学力テスト平均点を縦軸、就学援助率を横軸にとると、点の集合は、やはり右肩下がりを示す。

 就学援助率が高く、テストの平均点が低い中学校の教師( 59 )は 競争が活力を生むというが、そもそもスタート地点が違うのだから、勝負にはならない自由だ選択だと言っても、お金がなければ何もできない と言う。 学校選択制で、同校への入学希望者は年々減り、今は数少ない地元の生徒だけが残る。

 小泉首相は1月、通常国会冒頭の施政方針演説で、「今後の日本を支えていくのは人であります」 と強調した。

 将来の日本を支える人材は、決してエリートだけではない。 なのに、一定の水準を保つための機能はほころびつつある。





( 2013.05.22 )

 


 「誤算ですよ。 まさかこんなにかかるとは ……」 ―― 肩をがっくり落としたまま、仲本茂樹氏( 仮名、51歳 )は悔しがる。妻( 46歳 )と女・男の2人姉弟の4人家族。 首都圏郊外で購入した一軒家から都内中堅メーカーに通う。 長女は4年前、みずから 「中学受験がしたい」 と塾通いを始めた。

 仲本氏は晩飯を水か “もずく” で我慢してバックアップ。 私立校の授業料を考えると、年収570万円弱の仲本氏も気が気ではなかったが、 「めでたく失敗、公立へ行ってくれた(苦笑)」。 その後も月2万円の個人塾に3年通った末、今春に第一志望の県立高校へと進学した。

 初期費用は入学金5650円と通学用の自転車1台分ですむはずだったが ……。

 「入ったバスケ部が県内有数の強豪。 毎週土・日はすべて他校への遠征。 夏休みなんて、3泊の合宿を4回ですよ」

 この費用がバカにならない。 遠征時は、電車代とコンビニ弁当代で1日3000~5000円が消える。月々の手取り40万円、うち住宅ローンが15万円( 25年ローン、残り5年 )。 そこから3万~5万円弱が飛ぶのはつらい。

 「夏合宿では合計11万円が消えました。 ユニホーム代4万円の請求書が手元にありますが、まだ払ってません」

 2ヵ月ごとに4万円弱、年内に計12万円支払う修学旅行の積立金が、仲本氏の神経をさらに逆撫でした。

 「高校の授業料無償化に賛同して民主党に1票入れたのに ……。 長女は帰宅が10時、11時。 塾に通う暇もないが、自宅では1秒たりとも勉強していない。 逆に中1の長男は塾にも行かせず放ったらかし。 2人ともグレてないのが救い」

 倹約も限界に近い。 昼は同僚の誘いを断り、1人オフィスでカップラーメンかコンビニのおにぎり。 晩飯は1パック95円のもずくの代わりに3パック68円の納豆を1パックのみ。 自宅のパソコンが壊れたのを機に、ネットをやめた。 学校とのやりとりは今やメールが主流だが、仲本家の分だけプリントを貰う。

 「休日の朝、ゴルフに行く直前にファンヒーターが壊れた。 かみさんが怖くて、その日にゴルフ代と同価格のを即買い。 洗濯機もガタガタ鳴り始めた。 次は冷蔵庫か …… 家電が寿命を迎えるのが怖い」

 昨年の台風ではがれた自宅の天井も、ガムテープで張りつけたままだ。


「後で返す」 とわが子のお年玉を ……

 教育費が誤算だったのは確かなようだ。 が、妻のパート収入を含めれば年収600万円弱。 なのに 「預貯金がプラスになったことがない」 ( 仲本氏 )のはなぜか。

 「私と同じ、 『何とかなるわ』 の典型的なバブル世代。 見栄を捨てられず、消費をまだ美徳だと思っている」

 仲本氏の家計を見たFPの深野康彦氏が苦笑する。 その 消費=美徳 の意識が如実に表れているのが車だという。

 「軽自動車と、新古で購入したベンツの計2台を持っていた。 先日ベンツのドアミラーを修理に出したら18万円と聞いてビックリ」 ( 仲本氏 )、2台とも売却して国産車を170万円で購入した。

 「“軽” 1台を残せばいいのに。 買い替えという “美徳” の口実だったのかも。 長女にゴルフセットを買ったそうですが、使わないなら売ったほうがいい」 ( 深野氏 )

 一番怖いのが、仲本氏の健康だ。

 「この食事では体を壊し、かえってお金がかかる。 家族のためにわが身を犠牲に、という考えは独りよがり。 奥さんに 『風邪ひくな』 と一喝されそう」 ( 同 )

 震災で仕事はガタガタに。 最近ようやく持ち直すも、収入増は望み薄だ。 おのおのの両親は健在だが、長女の高校受験が終わると “支援打ち止め” を宣告された。 最近、妻が 「後で返す」 と言いつつわが子のお年玉に手を付けたという。

 「奨学金を借りられるから、というだけでお子さんを大学に進めるのはやめたほうがいい。 4年間で数百万円の債務を背負ったまま社会に出ることになる。 子供が就職できず、かつ夫が失業ともなれば、親子で共倒れになります。 まず、奥さんにもっと稼いでもらわないと、老後は最悪で生活保護を受けるかも。 とにかく見栄とプライドを捨て、家族で内実をあけすけに話しあうべきでしょう」 ( 深野氏 )

 就職できれば幸運というご時勢は続く。 “最悪” は絵空事ではないのだ。






 

 将来の日本社会をになう子どもと若者の 「教育」 について考えるシンポジウムが10月18日、東京都内で開かれた。 教育や福祉の専門家によるディスカッションでメインテーマとなったのは、貧困家庭の子どもたちの教育問題だ。 登壇した社会学者の宮本みち子さんは 「子ども自身は 『家が貧しい』 とは絶対に言えない」 「周りの大人が子どもの貧困にアンテナを張ろう」 と呼びかけた。


「家が貧しい」 と子どもは言えない

 「内閣府からは、日本の子どもたちの6人に1人が貧困の状態にあるというデータが発表されています。 また、家族からも学校からも職場からもこぼれ落ちて、困っていても相談する人がいない 『社会的孤立』 の状態にある人も、2000年代から急速に増えてきました」

 放送大学副学長で、子どもや若者の問題にくわしい宮本さんは、このように話を始めた。

 「子どもの貧困が増えていると言うと、アフリカなどの飢餓でやせ細った子どもを思い浮かべて、 『そんな子どもがどこにいるんだ?』 と反論する人がいます。 しかし、現代日本における貧困は、アフリカのそれとは違います。

 たとえば、家にお金がなくて部活の道具が買えずに、部活を辞めてしまう子がいるとしましょう。 でも、子ども自身は 『家が貧しいから』 とは絶対に言わず、黙って辞めてしまいます。

 そのため先生も友達も、その子がなぜ辞めたのか分からず、 『あの子は根性がない』 『努力が足りない』 と受け止めるわけです。 でも、その子の背景を調べれば、ただちに貧困状態にあることがわかる。 そんな状態が今、日本で見られる貧困です」

 社会で普通だとされている生活がおくれない経済状態は、 「相対的貧困」 と呼ばれている。 日本の子ども6人に1人が、そんな状態にあるというのだ。


「生活保護世帯の子ども」 が親から言われていること

 そんな子どもたちへのサポートとして、 「教育支援」 は大きな役割を果たしている。 埼玉県職員で社会福祉士の大山典宏さんは、埼玉県の取り組みを次のように説明した。

 「埼玉県では、生活保護世帯の子どもを対象とした 『学習教室』 を29ヵ所設置しています。 中学3年生については、対象者の4割が通っています。 そのうち、8割が母子家庭です。 6~7人に1人は不登校で、彼らの多くは小学校3~4年生程度の学力しかありません」

 学校に行けない不登校の子どもが、学習教室には顔を出す。 その背景には、生活保護世帯の複雑な事情があると大山さんは説明する。

 「生活保護世帯の子どもは、親から 『先生や友達に迷惑をかけるな』 『学校で静かに生活して、先生の印象に残るな』 とさんざん言われて育っています。
 生活保護を受けているということで、ただでさえ偏見の目で見られるのだからそれ以上迷惑をかけるなと、親は言いたいわけです。
 しかし、そのために、授業で分からないことがあっても先生に質問できず、家でも教えてもらえないという状態に陥っています」

 一方で、学習教室はどうか。

 「学習教室へ来れば、大学生のボランティアが1対1で勉強を教えてくれる。 同じような境遇の子どもたちとグループで勉強ができ、仲間を作れる。 そして、学習教室の職員が、 『頑張ってるね』 『受験受かると良いね』 と声をかけて見守ってくれる。
 このように、自分を大事にしてくれて1人の人間として認めてくれる大人がいる環境だからこそ、子どもたちは学習教室に通ってくるのです」


貧困への 「アンテナ」 を張ることの重要性

 貧困問題について、なぜ 「子ども」 への支援が大事なのか。 宮本さんは次のように警鐘を鳴らす。

 「若者にきちんとした教育や就労の機会を与えないと、知識やスキルがないまま中年になります。 すると、満足な収入を得られる職に就けず、生活保護を受けるしかないような状況になってしまう。 子どもや若者の問題というのは、社会の 『アンテナ』 と地域が、一丸となってこの問題に取り組まなければいけないという自覚がとても大切だと思います。
 今後、貧困と孤立状態の中で安心・安全な生活ができない人が増えれば、たとえば、 『繁華街の雑踏に若い女性が1人でいても危なくない』 といった状態は失われるだろうと思います。 つまり貧困や孤立の問題は、 『自分の家庭が』 『うちの子どもだけは』 といった個人的な問題ではなく、日本社会全体の安全を左右する問題です」

 子どもの貧困問題について、東京都荒川区は2009年から調査研究を行うなど、力を入れて取り組んでいる。 宮本さんは 「東京・荒川区では、子どもに直接かかわるような教師や役所の人間は特に、子どもの貧困について 『アンテナ』 を張ろうと呼びかけています」 と指摘。 そのうえで、そうした取り組みを広げていく必要があるとして、次のように力を込めていた。

 「ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代を経過した日本は、戦後の貧しい時代とは違います。 そのため、貧困とはどういう状態かを知らない人は少なくない。 目の前の子どもが、昨日も今日も明日も同じ服を着ているのにピンと来ない。 子どもが、自分の貧困を訴えることは非常に大変なことですので、まずは周りの大人が 『アンテナ』 を張らなければ、問題は解決しないのです」