( 2016.09.23 )

    



 外国人留学生が増えている。 独立行政法人日本学生支援機構によれば、2015年度の外国人留学生は20万8379人となり、20万人の大台を突破したという( 参考 「外国人留学生数の推移」 )。 日本の大学生と専門学校の在学生はざっと350万人だとすると、約17人に1人が留学生となる計算だ。

 年々増え続ける留学生だが、その背景には、2008年に日本政府がぶち上げた 「留学生30万人計画」 がある。 政府は 「高度人材受け入れとも連携させながら、優秀な留学生を戦略的に獲得していく」 として、日本のグローバル化戦略に優秀な留学生を組み込む一方、将来的に進行する人口減少を留学生の日本への定住とともに補う算段だ。

 すでに人口減少は大学経営を直撃している。 巷で 「名前さえ書けば合格を出す大学すらある」 とささやかれるように、少子化に伴う大学の定員割れで 「大学全入時代」 を迎える今、多くの大学がAO入試を積極的に取り入れたり、推薦入試枠を拡大するなど、入試選抜のハードルは下がる一方だ。

 文部科学省によれば、日本には国立大学86校、公立大学86校、私立大学603校の合計775校がある( 2015年4月1日現在 )というが、今夏、読売新聞が 「44%の私大が定員割れ」 を報じ、衝撃を与えた。 供給が需要を上回る市場では、埋まらない定員を補う存在として、 「外国人留学生」 の取り込みに躍起なのだ。


観光PRと化す学校案内パンフレット

 留学生向けの入試を目前に控えたこの時期、東京都心部の日本語学校では職員がある作業に追われていた。 毎日のように全国各地の大学から送られてくる学校案内パンフレットの開封作業だ。 パンフレット発送は日本語学校に留学している外国人に向けた 「卒業後はうちの大学に」 という “売り込み合戦” の一端である。

 作業に追われる職員が、地方のある大学のパンフレットを開封し、こうつぶやいた。
「学校案内のパンフレットなのに、なぜかご当地の観光地や名物の写真、ゆるキャラまで掲載する大学も。 『ぜひ来てください』 って、これじゃまるで観光案内か旅行会社のパンフレットですよ」
 都市部に集中しがちな留学生を、いかに地方の大学に振り向けるか ――。 これが地方の大学の大きな課題だが、そこにはアカデミックなアプローチではなく、なぜか 「ご当地宣伝」 に走る大学も。 留学生獲得に必死のあまり、 「学問ありき」 の本分をすっかり忘れてしまった大学も少なくないようだ。


講師の仕事は モーニングコール

 日本の大学に留学を希望する外国人は、一定水準の日本語能力が要求される。 学部入学には日本語検定1級レベルが望ましいとされ、それを満たさない学生は大学留学の前段階として、日本語学校での学習が必須となる。 その日本語学校でこんな光景がよく見られるようになった。

 「今日はどうしたの? まだ家にいるの? 9時から授業だよ」 ―― 日本語講師が学生に “モーニングコール” をする姿だ。 講師自らがモーニングコールをしなければ、学生は登校しない。

 講師が焦って電話するのも、 「出席日数8割」 を維持させるためだ。 これを割り込めば、もはや大学受験資格はない。 全国でも屈指の規模を誇る日本語学校で働くベテラン職員の田中薫さん( 仮名 )は明かす。
「講師が一所懸命に電話しても、それでも学生はなかなか出てきません。 学生の日本語学習に対するモチベーションは決して高いとは言い難いですね」
 その結果、学生の進路も上位校からは遠ざかり、専門学校もしくは定員割れ大学や地方の大学という選択が現実味を帯びるのだ。 意欲の低さは 「どの日本語学校にも共通する悩みです」 ( 田中さん )だという。


二極化する留学生 専門学校も人気

 日本に留学する学生の中には、母国のトップ大学に落ち、日本の東京大学や早稲田、慶応大学を “滑り止め” とする超優秀な留学生も存在する。 今や 「大卒が当たり前」 とされる中国では、学歴に箔をつけるために海外のトップ校を狙う留学生が増えているのだ。

 一昔前の中国人留学生と言えば、生活苦や親元へ送金するバイト目的も多かったが、近年は富裕層の増加とともに、ひたすら勉強に打ち込む学生が増えた。 熾烈な競争社会に打ち勝つことを目的に、日本の大学院で修士号を取ろうという留学組も増えている。

 一方で、専門学校を目指す留学生も増えている。 日本学生支援機構の調査からは、2015年度は、大学は前年比3.5%増、大学院は前年比2.4%増であるのに対し、専門学校は前年比32.3%と大幅な増加を示していることがわかる。

 専門学校人気について、同機構は次のようにコメントしている。
「中国、韓国の学生は相変わらず学位優先の傾向が強い一方で、 『絶対に大学進学だ』 という観念が薄れる傾向も出てきています。 日本の文化を学びたいという憧れ、あるいは実際に手に職をつけたいというニーズなどが、専門学校における調理師やパティシエ、アニメクリエーターへの志望につながっています」

アルバイトの緩和が半端な留学生を生む一面も

 2015年、留学生で最多を占めたのは中国人留学生で9万4111人、次いでベトナム人留学生が3万8882人を占めた( 日本学生支援機構 )。 注目したいのは、2位のベトナム人留学生が前年比47%の爆発的な伸びを示していることだ。

 「今、ベトナムは日本ブームです」 ―― と語るのは、東京大学を卒業した元ベトナム人留学生のグエンさん( 仮名 )だ。
「ベトナムで高まる日本ブームに伴い留学エージェントも軒並み増え、 『日本に行けばアルバイトでたくさん稼げる』 と甘い言葉をささやいて学生を集めます。 ベトナム人も 『行ってみたい』 という軽い気持ちでこれに応じます。 『留学生30万人計画』 の影響もあるのでしょう、近年は留学ビザ取得も容易になり、週28時間のアルバイトもできるようになりました」
 「留学生30万人計画」 の発表直後に行われた2009年の入管法の改正で、外国人の日本への留学のハードルが引き下げられた。 例えば、適正な日本語学校については、留学ビザの発給に必要とされる提出書類の種類が緩和された。 また、従来は一度日本に渡航しなければ認められなかった入学も、 「渡日前入学許可制度」 を利用する日本語学校が増え、渡航させる必要がなくなったところもある。 英語だけでも学位がとれるようになったのも、実質、 “ハードル引き下げ” を意味する。

 最大の緩和はアルバイトだ。 これまで 「1日4時間」 しかできなかったアルバイトが、 「1週間に最大28時間」 までなら可能となった。 日本語学校の学生の場合は、 「週14時間」 に制限されていたのがその倍の 「28時間」 に拡大した。

 「日本語学校の授業に遅刻するのは、アルバイトで朝起きられないため」 ( グエンさん )、それが学習意欲の低下を招く。 そんな負の連鎖で、のちの進学は 「消去法的選択」 とならざるを得ない一面が浮かび上がる。 専門学校人気の裏には、 「アニメ」 「和食」 などのニーズ以上に 「アルバイト時間の延長」 があるのだ。

 「数年前に比べて “半端な留学生” が増えたような気がします」 とグエンさんは言う。 ちなみに、アメリカの留学生は原則として就労が禁止されている。 関連の業界からは一様に 「本気で勉強する人材はむしろアメリカに向かい、日本に来ないのでは」 という声が漏れる一方、 「日本では “なんちゃって留学生” が増えてしまう」 との懸念が広がる。

 また、専門学校に入学したとしてもも、出席が足らず退学になるケースもある。 「脱落して帰国の途に就く留学生は本当に多い」 ( グエンさん )。







( 2016.10.04 )



 「これほど増えるとは予想していませんでした」 ―― ここ数年、法務省入国管理局も驚くほど、日本への留学生が増加している。

 2015年度はついに20万人の大台を超えた。 背景には2008年に日本政府がぶち上げた 「留学生30万人計画」 がある。 優秀な留学生を取り込む一方で、将来の人口減少を外国人材の定住で補おうという政策だ。

 しかし、日本語学校の一部からは 「“問題留学生” はもういらない」 という声も聞こえてくる。 九州の日本語学校で日本語教師をしていたAさんは、 「留学生の数は、もはや管理能力を超えています。 お手上げ状態です。 日本語教師や職員の負担は増えるばかりで、私も体を壊して辞職しました」 と打ち明ける。

 「留学生が引き起こす近隣住民とのトラブル、ケンカ、窃盗、果ては強姦未遂。 こんな状況が続けば、あの日本語学校は不法行為を行う外国人の温床になってしまいます」 とAさんは危機感を募らせる。

 当時、Aさんは日本語の指導だけではなく、学生の生活指導の責任者も務めていた。 留学生を生活指導する難しさをAさんはこう語る。
「ゴミを分別しろと言ってもやらないし、スーパーの傘立てに置いてある他人の傘をサービスと勘違いし勝手に持ちかえることもしょっちゅう。 そんなのはまだかわいいほうで、隣の部屋の音に腹を立ててナイフを持って脅しに行ったり、不法就労の仲介人と結託して日本国内を逃げ回る留学生もいました」

「適正校」 制度で荒稼ぎする日本語学校

 こうした問題留学生が増えた原因はさまざまだが、関西のある日本語学校の職員Rさんは、直接的な原因は経営側にある指摘する。
「当校では、どんな留学生でもいいからどんどん入学させろと経営幹部が指示するんです。 実は当校は他校よりも留学ビザが下りやすい。 これを利用して儲けない手はないというわけです」
 他校より留学ビザが下りやすいのは、この日本語学校が 「適正校」 に認定されているためだ。 日本には入国管理局の一定の基準をクリアした適正校が約550校ある。 適正校の認定があれば、ビザ申請に必要な書類の種類はほぼ半分で済む。

 適正校になるには、不法残留の発生率を5%以下にとどめることが条件だ。 経営者の中には適正校の認定を死守するために、留学生全員のパスポートを取り上げて学生を管理するところもあるという。
「当校の経営陣は利益最優先です。 教育理念があるとはとても思えません」( Rさん )
 通常、日本語学校の 1クラスの定員は20人だが、中には売り上げを増やすためにそれ以上の人数を詰め込むところもある。 入国管理局は日本語学校に、留学生をきちんと選抜するよう繰り返し要請しているが、当の日本語学校は馬耳東風だ。


現地の問題児が入学してくる

 問題留学生が増加した原因をさらに探っていくと、入管法の緩和に突き当たる。 「留学生30万人計画」 の発表直後に行われた2009年の入管法の改正で、それまでと比べて外国人が日本に留学しやすくなったのだ。

 まず 「適正校」 ならば、留学ビザの発給に必要な提出書類の種類が、実質的に従来の約半分で済むようになった。 また、従来は一度日本に渡航しなければ認められなかった入学も、 「渡日前入学許可制度」 の利用でその必要がなくなった。

 ここ20年で、入管法が大幅に緩和されていることは間違いない。 身元保証書もすでに1996年の時点で不要となっている。 2010年には、それまで 「1日4時間」 に制限されていた留学生のアルバイト時間が 「週28時間」 に緩和された。 そのため、 「留学」 の形を取りながら本当は日本にアルバイトをしにやって来た、という学生も少なくない。

 Rんが在籍する日本語学校にも、アルバイト目的の学生がいるという。 留学を斡旋するアジア各国のエージェントが 「日本語学校に通いながら、アルバイトができる」 と地元の若者に声をかけ、日本語学校に送り込んでいるのだ。 「その結果、本来なら留学なんてしないような問題児までが、うちの学校に来るようになりました」 ( Rさん )。


利益最優先の経営が学生の質を低下させる

 問題留学生の増加によって、日本語学校では想定外の仕事がどんどん増えている。

 たとえば、留学生の出席日数が足りないとビザ更新に響くため、教師は生徒に “モーニングコール” をかけて叩き起こす。 留学生がアルバイトをし過ぎて強制送還を食らわないよう、生活指導担当者は留学生の通帳の入金にも目を光らせる。

 しかし、問題留学生は教師や職員の指導を全く意に介さない。 挙句の果てに失踪してしまう者もいる。

 留学生の質の低下は、彼らを受け入れる日本語学校の経営スタンスに責任の一端がある。 だが、留学生の大多数は、真剣に日本語を学ぶために日本にやって来たのだ。 日本語学校は、こうした学生たちの期待に応えなければならない。